大阪・奈良日記
8月5日
昼食を立ち食いそばで済ませたぼくは、無印良品でスニーカーソックスを2足買い、一旦自宅に戻る。
すでに汗だく。なんで今日に限って、こんなに暑いのか。14時前に家を出る。
15時東京発の新幹線に乗って大阪へ向かう。今夜は大阪に泊まる。奈良ではなく大阪に前泊するのは、リハーサルのできるスタジオが、奈良では探せなかったから。
夏の行楽シーズン只中の新幹線。ほぼ満席。ぼくはギターケースが置きやすい、一番後ろの席を予約した。
新大阪から難波に向かう。御堂筋線。2分おきほどの間隔で、電車がやってくる。東京でいうと、丸ノ内線のような地下鉄ではなかろうか、とぼくは思う。
新大阪から、梅田、心斎橋、難波を通って天王寺方面に向かう路線だ。東京の古い地下鉄は、デパート同士を結ぶ路線として整備されたらしいが、大阪もやはりそうなのだろうか。
地下鉄を難波で降りて、ビジネスホテルへ向かう。出口がわからない。とりあえず、地上に出る。蒸し暑い。ギターケースを抱え、着替えや衣装を詰め込んだ鞄を担いで、グーグルマップをたよりにホテルまで歩く。
千日前。老舗と思われる飲食店と、風俗の店が混在する、でたらめな街だ。こういうとき、ギターケースを担いでいると、風俗の呼び込みに声を掛けられることはまずない。
ホテルにチェックインする。18時過ぎ。目と鼻の先にスタジオがあるので、このホテルを選んだのだが、あまり良い選択ではなかったと、あとで気付く。
19時からスタジオに入ろうと思い、電話をしてみる。空いていない。東京では、今やスタジオはどこも閑散としていて、当日電話をしても、だいたい希望の時間で予約が取れるものだが、大阪はそうではないようだ。
仕方なく、21:15からスタジオを予約する。
時間があいたので、シャワーを浴びて、食事に出かける。明日は奈良まで移動しなくてはならないので、駅の場所も確認する。
夕立が来そうだ。ユニクロで折りたたみ傘を買うが、結局雨は降らなかった。
食い倒れの街で何を食べようかと歩いてみたが、人が多すぎる。行列に並んで食べているほど時間はないし、なにしろぼくは一人だし、それはまったく楽しそうでもなかった。千日前に引き返す。
"みんみん"の本店が千日前にあるとのことで、そこで餃子ライスと豚肉とタケノコのスープを注文する。餃子はともかく、このスープが劇的に美味い。東京の支店でも、同じものが出されているのだろうか。
食事の後、一人でスタジオ。明日はカバー曲をやるので、それらを中心に調整する。
スタジオはほぼ満室。店員に、東京のスタジオはガラガラで、もう誰も練習なんかしていないと言うと、これでも暇な方なのだそうだ。
東京の音楽シーンが冷めているのかもしれない。
リハーサルを終え、ホテルに戻りシャワーを浴びて眠ろうとするが、歓楽街にあるホテルなので、外の歓声がうるさい。おまけに、部屋の冷蔵庫の音もうるさくて、うまく眠れない。
8月6日
結局、5時過ぎに起きてしまい、仕方がないので、ギターを出して弦を張り替える。
7時になると、近くのコンビニへ行き、サンドウィッチとアイスコーヒーを買う。朝食を済ませると、時間までしばらく横になる。
8時半にホテルを出て、奈良へ向かう。近鉄の快速急行、近鉄奈良行きは空いていて、ストレスなく奈良まで行く。
近鉄奈良駅から、バスでJR奈良駅まで。それにしても、何もない。本当に何もない所だ。寺社仏閣以外は...
駅ビルでコーヒーを飲み、現場に入る。スタッフを紹介され、すぐにサウンドチェックと段取り決め。芝居中におけるぼくの登場の仕方、退場の仕方を何度かリハーサルする。
その後、本編の通しリハを見させてもらってから、ぼくは外へ出て、またアイスコーヒーを飲む。そして、土産物屋に入り、東京でお世話になっている方への土産を買い、宅配便で自宅へ郵送する。
ホテルにチェックインして、部屋のカギをもらう。部屋に着くと、ぼくは鞄から衣装を出してベッドの上に広げ、楽器の調整をする。
会場に戻ると、席はすでに半分くらい埋まっている。10分ほど押して、第一部の朗読芝居が始まる。切ないストーリーで、自分が無防備な子供に戻ってしまったような気分にさせられる。
映像とテロップと朗読、それらと相まって流れる音楽と会場を様々な色に変化させる照明は、何度もリハーサルされた絶妙なタイミングでつながれ、観客は魅了される。
ぼくは途中で退席したのでわからないけど、何人もの人が泣きながら芝居を見ていたそうだ。ぼくも通しリハを見ていて、グッとくる個所がいくつかあった。
退席したぼくは、業務用エレベータで8階まで上がり、部屋で衣装に着替える。選んだ衣装は、なんの打ち合わせもなく、ぼくが持参したものだ。
ぼくは、普段のライブで衣装を着ることはないが、それでも、なにかのときを想定して、衣装は常に持っている。あまり趣味のいい衣装とはいえないが...
ぼくはステージ裏にスタンバイする。朗読が終わり、カーテンが開く。ぼくはイントロを弾きながら前進し、マイクロフォンの前に立つ。
全員がぼくを見ている。ややマイクの位置が高い。気にせずぼくは歌いはじめる。何度も何度も歌った曲。ミスるわけがない。それでも、2か所ほど、あやうくミスりそうになる。
会場の空気が冷たい。観客はあきらかに戸惑っている。ぼくを受け入れたいのだが、そのやり方がわからない。あるいは、受け入れていいものかどうか、決めかねている。そういう類の戸惑いだ。
演奏は多分固かったと思う。歌い終わると、山本真弓がステージに上がり挨拶をする。客席はまだ引き気味だ。
ぼくは、このアウェイな状況の中、このあと1時間ほど、一人で弾き語りをしなくてはならない。そう思うと、少し気が重かった。でも、それはぼくにとっての試練なのだ。
コース料理と歓談の時間。会場の空気は、ここでかなり緩んだ。再びステージ裏にスタンバイする。今度は衣装を着ていない。普段着だ。
柴田さんが、MCでぼくを紹介する。柴田さんは、ぼくの名前を間違える。なんだよ、と思う。でも、あとでいじってやればいい、と切り替え、演奏を始める。
今度はさっきとは違う。ここはぼくのペースでやらせてもらいます。客席の年齢層がいつもより高いことは、前情報で知っていた。それを想定して、カバー曲やMCのネタは仕込んである。
<セットリスト>
1.ライフ
2.strawberry fields forever(カバー)
3.風をあつめて(カバー)
4.上を向いて歩こう(カバー)
5.太陽の子供たち
6.輪郭
7.あなたの吐息と暮らす日々(新曲)
8.夕凪(新曲)
9.未来へ(カバー)feat,山本真弓
10.あなたがいつも黙るころ
11.どこまでもつづく道の真ん中で
途中、「輪郭」では会場の手拍子と、ぼくのリズムが合わない。手拍子が遅いのだ。そして、この世代の人たちにとって、ぼくの曲はリズムが取りづらいということを知る。
「未来へ feat.山本真弓」は、数日前にぼくが山本さんにリクエストしたものだ。はじめは消極的だったが、なんとかお願いしてやっていただいた。
彼女に歌ってもらったのは、ここで流れを変えたかったからだ。サッカーの試合で、途中投入される選手がするように、彼女は流れを変えてくれると思ったし、実際に流れは変わった。
最後の2曲は、余計なことを考えず"無"になって、歌いたかった。そのためには、そこで空気を変える必要があったのだ。
ぼくの作戦は、成功したと思う。
本番が終わって、ぼくは部屋に戻り横になった。することがないので、ぼんやりとテレビを見ながら時間になるのを待った。
21時。駅の下にある居酒屋での打ち上げに参加する。リハーサル~本番にかけて、ぼくはそれなりにテンパっていたので、やっとゆっくりみんなと話をすることができた。
打ち上げは24時にお開きとなり、ぼくは部屋の戻りシャワーを浴び、すぐに眠った。今度は外の歓声もなく、冷蔵庫も静かで熟睡できた。
8月7日
8時に起きて、レストランで朝食。偶然、柴田さんと会い、同席する。音楽のこと、音響のこと、その他いろいろなことを話す。柴田さんと二人で話をするのは、はじめてだった。
10時にホテルをチェックアウト。駅まで行き、帰りの新幹線のチケットを買う。みどりの窓口でチケットを買っているのは外国人ばかりで、日本人はぼくだけだ。
JR奈良線で京都へ向かう。単線だ。奈良駅を出ると、すぐに景色は田園風景へと変わる。日本の田舎の風景はどうして、関西も、関東も、東北も同じなのだろう、とぼくは思う。
自宅に戻り荷物を整理すると、することがなくなったので、いつものジムに行ってトレーニングをする。体重計に乗ると、1kg減っている。
駅前のアービーズで、アイスコーヒーを飲みながらサンドウィッチを食べる。SNSを開くと、イベントについての記事が盛り上がっている。それは、ぼくにとっては、なんだか遠い世界の出来事のように感じる。
翌々日、ぼくは、またいつもの東京のライブハウスで歌うことになっている。
***8月9日(火)***
".comfort presents *宵花火*"
@四谷天窓.comfort
open / start 18:30 / 19:00
charge 2000円(order 1drink)
出演
結城義広 / 佑多 / Maya / 小山真実
チケット予約
http://yoshihiro-yuki.com/schedule/ticket/input/42362
■■■四谷天窓.comfort■■■
東京都新宿区高田馬場3-4-11 BaBa hatch 5F
call 03-5338-6241
おまけ
アービーズを出たあと、こんな看板を見つけた。駅前だ。ぼくは大阪を"でたらめな街"だと言ったが、ぼくの住む街も相当でたらめだ。アウトでしょ、これ。
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